[ブログvol.1] FTIRの原理、代表的な測定手法について
FTIR(フーリエ変換赤外分光法)の原理
FTIRは赤外光を用いて物質の分子振動を調べる分析手法です。光源から放射された広帯域の赤外光を干渉計に通し、可動鏡の位置を変えながら光の干渉波(インターフェログラム)を取得します。干渉計では赤外光がビームスプリッターで二つに分割され、一方は固定鏡へ、もう一方は可動鏡へ送られます。二つの光はそれぞれの鏡で反射されて再びビームスプリッターに戻り、位相差のある光として合成されます。この合成光を試料に当て、透過もしくは反射した光を検出します。その干渉強度パターン(インターフェログラム)をフーリエ変換することで、各波長(波数)成分の吸光度スペクトルが得られます。これにより試料がどの波長の赤外を吸収するかがわかり、分子中の官能基に対応する振動モードを特定できます。

上図のようなマイケルソン干渉計を使ってもう一度、説明しましょう。赤外光源(様々な連続的な波長を含む光源)からの光はビームスプリッター(半透過鏡)で二方向に分かれ、片方は固定鏡、片方は振動する可動鏡へと進みます。二つの光が再び合成される際に、可動鏡の位置(位相差)によって、一部の波長成分は強め合い(干渉強度の増大)、一部は弱め合います。これにより試料に入射する光のスペクトルが周期的に変化し、検出器で得られる干渉信号も時間(鏡位置)とともに変動するのです。得られた全波長の情報を含んだ干渉信号(インターフェログラム)を高速フーリエ変換し、バックグラウンド測定、サンプル測定と実施し、それぞれの比をとり、赤外吸収スペクトル(吸光度/透過率 vs 波数)に変換します。
代表的な測定手法とその原理
FTIRでは様々な測定モードがありますが、代表的なものとして、透過法、ATR法(全反射法)、反射法、拡散反射法などがあります。試料や目的に応じて適切な手法を選ぶことが重要です。
透過法:薄膜やKBr錠剤にした試料に赤外光を透過させる手法で、試料をできるだけ薄く(一般に数μm程度以下)用意する必要があります。液体セルやガス測定にも応用され、ガス測定では一般的に数㎝~数mの光路長が利用されます。

ATR法(全反射法):屈折率の高いATR結晶(ダイヤモンド、ゲルマニウム、シリコンなど)に試料を密着させ、結晶表面で全反射させた赤外光のエバネッセント波が試料表面に数μm侵入する現象を利用します。ATR法は試料の厚み制限がなく固体表面をそのまま測定できる利点があり、特に固体の非破壊的な分析に有効で、最も一般的なFTIR測定手法です。

拡散反射法:粉末試料に赤外を当て、乱反射した光を集光して測定する方法です。粉末そのものでは吸収が強すぎる場合、通常はKBrで希釈して測定します。粉末試料表面に吸着した成分を測定する場合などに利用されます。
反射吸収法:金属上に付着した試料や、成膜されたサンプルに利用します。入射した赤外光は試料を透過し、金属で反射して、検出器に到達します。対象サンプルは十分に薄いか、微小である必要があります。 外部反射法:光が試料表面で正反射する外部反射法(鏡面反射)を利用し、反射スペクトルから間接的に分子振動の情報を得ることができます。サンプルを非破壊で固体表面のそのままの状態で測定できるため、厚いサンプルや不透明サンプルでも測定できます。

FTIRの特長と優位性
FTIRは分散型赤外分光と比較して高速かつ高感度です。一度に全波長の情報を取得して後から計算処理するため、測定時間が短くS/N比も向上します(マルチプレックス効果とジャコブソンの法則によります)。また光学系に干渉計を用いることで高い波数精度と分解能が得られるのも利点です。一般的なFTIR装置では0.5 cm⁻¹程度の高分解能まで可能で、高分解能型は0.1 cm⁻¹以上の分解能をもちます。さらに測定可能な波数範囲が広く、一つの装置で近赤外、中赤外、遠赤外をカバーできます。試料も固体・液体・気体いずれも測定でき、試料前処理も比較的簡単です。赤外光をサンプルに当てるだけで様々な分子構造情報を得ることができるため、極めて高い汎用性があります。これらの特長から、FTIRは研究用途、材料分析や品質管理など幅広い分野で利用されています。