[ブログvol.4] プラスチックの添加剤をFTIRで測定する方法、ATR、転写、抽出
プラスチック材料中の添加剤(安定剤、可塑剤、滑剤、防腐剤など)を赤外分光で分析する方法について解説します。プラスチックには、性能向上のため様々な添加剤が少量配合されています。それら添加剤をFTIRで検出・同定するには、ATR法による直接測定、ATR転写法、溶媒抽出法といった手法が有効です。以下、それぞれの原理と利点を紹介します。
(ATR法による直接測定)
最も手軽なのは、プラスチック試料をそのままATRで測定する方法です。固体の成形品であれば、そのままATR結晶に押し当ててスペクトルを取得します。添加剤の中には表面に偏在するものも多く、ATR測定は表面の数μmを分析するため、表面濃度の高い添加剤ならば検出しやすいというメリットがあります。例えばポリプロピレン中の紫外線吸収剤や難燃剤が表面に析出している場合、ATRスペクトル上にそれらの特有のピークが確認できます。ただし母材樹脂の吸収が強いと、微量成分のピークは埋もれて見えにくいことがあります。この場合、差スペクトル処理や多成分検索機能を用いて埋もれたピークを同定する方法があります。多成分検索機能を利用すると、たとえば「主成分: ポリエチレン」「副成分: 酸化防止剤○○」といった具合に、添加剤候補も推測できます。実務では、前もって想定される添加剤の純品スペクトルをデータベースに登録しておき、試料スペクトルを検索することで添加剤検出を行います。ATRによる直接測定は簡便ですが、試料表面に添加剤が偏在しない場合(均一に混ざっている場合)や、濃度が極めて低い場合には検出感度が足りないこともあります。その場合は下記の手法を検討します。
(ATR転写法)
これはATR法の派生テクニックで、試料をATR結晶に押し付けた後に一旦取り除き、結晶表面に残った添加剤を分析する方法です。例えば軟質ポリエチレンフィルムをATR測定すると、主にPE由来のCH伸縮の大きなピークが観測され、添加剤(例: 滑剤の脂肪酸アミド)はわずかにしか見えません。しかしATR測定後にフィルムを剥がし、すぐさま何も載せない状態でATRスペクトルを再測定すると、フィルムを外す際にATR結晶表面に転写・残留した微量成分のみのスペクトルが得られます。例えば、ポリエチレンサンプルに転写法を採用した事例では、PE由来の炭化水素ピークは消失し、滑剤由来のステアリン酸アミドの吸収だけが鮮明に検出されるなどがあります。こうしたATR転写法は、高分子マトリックスと添加剤のスペクトル分離に非常に有効です。ポイントは試料をATRクリスタルに押し当てる時間や圧力を適切にし、クリスタル上の転写量を稼ぐことです。ATR転写法は特に、滑剤や可塑剤など表面に移行しやすい添加剤分析に適しています。なお、転写後は結晶を必ず清掃し、次の試料に影響を及ぼさないよう注意します。
(溶媒抽出法)
添加剤を化学的に分離する抽出法もFTIR分析と組み合わせて用いられます。例えばポリマー中のフェノール系酸化防止剤を調べたい場合、そのポリマー粉砕物を適切な溶媒(トルエンやクロロホルムなど)でソックスレー抽出し、溶出した添加剤を濃縮してから赤外スペクトルを測定します。この場合、抽出液を蒸発乾固させて残渣の薄膜をKBr板上で透過測定したり、ATRで測定します。溶媒抽出-FTIR法の利点は、母材ポリマーの干渉を最小化できる点です。抽出残渣スペクトルを解析することで、添加剤の構造(例えばヒンダードフェノール系かリン酸エステル系か等)を推定できます。注意点として、抽出には添加剤が溶解する適切な溶媒の選定や、抽出後に溶媒ピーク(例えばクロロホルムのC–Hストレッチ)をしっかり除去することが挙げられます。また抽出により試料は破壊されるため、非破壊が要求される場合はこの方法は使えません。その場合、前述のATR転写や顕微IRによる直接検出を検討します。抽出法については、下記リンクの新潟県工業技術センターの報告で詳しく説明されていますのでご参照ください。
https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/attachment/346258.pdf
(その他の手法)
ごく微量の添加剤を分析するには、FTIR顕微鏡で添加剤の微小結晶をピンセットで取り出して測定する方法もあります。異物分析では実体顕微鏡で添加剤析出物を採取し、赤外顕微鏡で透過スペクトルを取りデータベース検索する流れが一般的です。さらに感度を上げたい場合、添加剤に着目した化学強調法(例えば特定官能基に反応する試薬で誘導体化してピーク増強する等)も応用されています。しかし通常はATR・転写・抽出の組み合わせで十分な結果が得られることが一般的です。
以上、プラスチック中添加剤のFTIR分析手法として3つのアプローチを紹介しました。いずれの場合も、得られたスペクトルの帰属(何の添加剤か)が肝心です。既知添加剤のスペクトルライブラリを活用し、必要に応じて標準品と比較測定して確認することをお勧めします。適切な手法選択とスペクトル解析により、プラスチック中の添加剤を効果的に同定・評価することが可能です。