2026.02.05

[ブログvol.6] 薄膜の配向をFTIRで評価する方法、透過、反射、ATR、MAIRS、偏光測定

高分子フィルムや有機薄膜の配向(分子配列の向き)を赤外分光で評価する手法について説明します。薄膜中の分子が特定の方向に配向していると、赤外吸収の強度が偏光方向によって変化するため、これを利用して配向度を解析できます。主な手法として、偏光赤外透過法、偏光ATR法、反射吸収法(IRRAS)、そして近年開発されたMAIRS法(多角入射分解分光法)があります。以下、それぞれの特徴と原理を述べます。

偏光赤外透過法(偏光測定): もっとも基本的なのは、赤外光に偏光子を入れて試料に垂直方向(p偏光)または平行方向(s偏光)の光を当て、吸収強度の差から配向を調べる方法です。赤外偏光子を用いて、薄膜試料を0°と90°に回転させてそれぞれ偏光スペクトルを測定し、特定ピーク強度の比を見ることで配向度合いを評価します。例えば延伸ポリエチレンフィルムでは、鎖方向に平行なCH₂伸縮モードの吸収が延伸方向の偏光で強く現れ、垂直偏光では弱くなります。この強度差から配向関数を計算することが可能です。ただし通常の偏光透過法ではフィルムが厚いと透過が悪くなり、また、フィルム内の多重反射も発生しやすくなります。

反射吸収法(IRRAS): 金属基板上に形成した単分子膜や極薄膜では、反射吸収(Reflection-Absorption)が用いられます。これは金属表面に極浅角(例えば80°)でp偏光赤外光を当て、反射してくる光のスペクトルを測定する方法です。金属表面ではp偏光のみが振動を励起でき、電場ベクトルが表面に垂直な振動モード(面直配向成分)のみが強調されます。したがってIRRAS法では、薄膜中の官能基が面外方向にどれだけ配向しているかがスペクトル強度に反映されます。例えば有機分子の長軸が表面法線方向に向いていると、対応する振動(例えばC=O伸縮)が強く現れ、逆に平行に寝ているとほとんど見えなくなります。また水界面上の膜の測定にも適しています。

偏光ATR法: ATRでも偏光赤外光を用いることで配向解析が可能です。ATRでは入射角が大きいためp偏光成分とs偏光成分の電場分布が異なり、特に高屈折率の結晶ではp偏光のエバネッセント波に垂直成分が多く含まれます。例えば高分子フィルムをATRで測定し、偏光子を回転させてスペクトルを取ると、あるピークは偏光角によらず一定だが、別のピークは偏光角で強度が変化する、といった現象が見られます。これは前者が無配向または等方的な振動、後者が特定方向に配向した振動であることを意味します。偏光ATRは透過困難な試料でも使えますが、解析には電場の深さ方向成分など理論的考慮が必要で、一般には透過法やMAIRSほど簡便ではありません。

MAIRS法 (Multiple-Angle Incidence Resolution Spectroscopy): 近年普及しつつある先端手法がMAIRSです。これは同一試料を使い、複数の入射角で透過スペクトルを測定し、それらを統計的に処理することで面内(IP)スペクトルと面直(OP)スペクトルの2つを同時に得る技術です。京都大学の長谷川健教授により開発された手法で、FTIRの拡張技術として注目されています。MAIRSでは、例えばSi基板上に作製した薄膜試料を数段階の角度で透過測定し、各ピーク強度の角度依存性からIP成分とOP成分を分離します。こうして得られる面内・面外スペクトルは、それぞれ薄膜中の分子振動モーメントが膜平面に平行な部分と垂直な部分を表しています。縦軸強度は同一スケールで比較できるため、特定官能基の配向度(例えば膜面に対して平均何度傾いているか)を定量計算することも可能です。MAIRSの利点は、1つの試料からIPとOPの両方を得られる点です。従来は同じ試料で平行成分と垂直成分を測るには試料を2枚用意するか、光学系を変える必要がありました。MAIRSなら単一の測定シリーズで完了し、解析も回帰分析で自動化されています。薄膜配向評価に革命的な手法であり、有機エレクトロニクス材料(液晶配向膜や有機半導体膜など)で活用が進んでいます。

配向解析の実例: 例えば、あるポリイミド薄膜のMAIRS測定では、ベンゼン環の振動(約1,500 cm⁻¹)がIPスペクトルでは強く、OPスペクトルでは弱かったと報告されています。これはベンゼン環面が基板平行に配向していることを示唆します。またC=O伸縮のピークはOPで強くIPで弱かったため、イミド基が面直方向を向いていると分かりました。このようにMAIRS結果から分子の立体的な状態が推定できます。偏光透過法でも類似の情報は得られますが、MAIRSほど定量的ではありません。薄膜配向評価では、「特定ピークの偏光依存性 → 構造中の振動モードの方向性 → 分子全体の配向」と推論するのが基本です。FTIRはX線回折ほど直接的に配向角を出せるわけではありませんが、官能基レベルでの向きが分かる利点があります。XRDが結晶格子ベクトルの配向を見るのに対し、FTIRは例えば「ベンゼン環面の配向」や「C≡N基の傾き」が分かるのです。

まとめると、薄膜配向の赤外評価には赤外偏光子を活用した測定が鍵となります。透過法や反射法に偏光子を組み合わせたり、MAIRS法のように高度解析を行うことで、薄膜中分子の姿勢を知ることができます。それにより材料の物性(例えば液晶配向膜の性能や有機膜の異方導電性)の理解が深まり、設計指針にも繋がります。今後もFTIR配向解析は様々な薄膜材料研究において重要な役割を果たすでしょう。

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